母の日に感謝をこめてカーネーションを、バレンタインデーに愛の言葉を添えてチョコレートを贈るように、普段はあまり口にできない「あなたは大切な存在」という気持ちと、だから「絶対に自殺などしないでほしい」という、一歩踏み込んだ言葉を、この〝予防デー〟を機に伝えてみるのだ。(あとがきより)
解説文:佐相憲一 |
四六判/128頁/上製本 |
定価:1,542円(税込) |
発売:2010年9月10日
【目次】
序詩 単独レース? 6
Ⅰ まっすぐ言う
まっすぐ言う 10
ブンチン 12
ハリネズミたち 14
なんにもないし 16
ありふれた黒点 18
命 綱 1 20
命 綱 2 24
命 綱 3 26
フーコーの振り子 28
快晴と不在 30
粉雪の舞う夜に 32
がんばれ 34
表 裏 36
オーイ 38
Ⅱ 日 常
弾ける日 42
過ぎる日 45
揺れる日 47
問う日 49
翳る日 52
留守番の日 54
笑う日 58
週末の予定 61
桜の下で 64
Ⅲ 位置について、用意
とあるサーフィン 68
明日死ねるか 70
ジシン 72
いのる、よりも 74
喪の仕事 78
簡潔な好意 80
退 屈 82
霧晴れてのち 84
位置について用意、リスタート 88
Ⅳ こころのよはく
こころのよはく 92
五月の苗 94
白、ノットイコール、無 96
おいぬさま 98
どうか こころに 100
7月3日 104
一つかみの魔法 106
おすそわけ 108
望ましい痛み 112
命 綱 4 114
ゆずり葉 116
ひだまり 120
あとがき 124
略 歴 127
詩篇を紹介
「オーイ」
オーイ、きこえるかい
ひとりでやろうとしなくていいんだ
というか ひとりじゃ むりだ
そのまま消えないで ひとりで消えないで
手をのばして 返事をして
呼んでよ
オーイ
「ブンチン」
わたしが死んだら生きていけないなんて
正直言って重いです
結局 生きていくと思うし
けれど その重みで
生かされてる
「おいぬさま」
わが家の犬たちは
成犬になったいまも
ほんとうに
よく眠る
黒毛の子はよく遊び
赤毛の子はよく食べて
けんかをしても
すぐに わすれて
すこしだけ
からだの どこかを
くっつけあって
眠る
人生の お師匠さま
あとがき
九月十日は「世界自殺予防デー」である。
今回の詩集では、現代の、精神的な問題と「自殺」を主題に置いた。今や「自殺」は特別なことではない。想像を絶するような不遇に直面した者だけの末路でも、異才の人間がある種特権的に選ぶ最期でもなく、ふつうに生きている私たち・そして私たち以降の世代を最も高い確率で殺す問題の一つであり、私自身が辛うじてそこから生還することの叶った一人だからだ。
自殺などというものは、自分には縁のないものだと思っていた。身内に自殺者が出てもなお、まさか主体の側に回るときが来るなどとは考えなかった。しかし、それは日常に少しずつ少しずつ紛れ込み、いのちを蝕んでゆく。だから小さくてもいい、いや小さなことから、具体的に対策を実践しなくてはならない。それは家族や友人知人に多少面映い台詞を投げかけることであったり、黙って抱きしめることであったり、あって当たり前のような関係を再確認・再構築することであったり、なんでもないような悩み事を語らうことかもしれない。
それらは、日々行われることが理想的ではあるものの、
「私にとってあなたはかけがえのない存在なんだよ」
「もしも、自分が、誰にも必要とされていないと感じることがあっても、そんな ことは決してないんだからね」
というような話を毎日毎日するのがいいのかというと、それはなんだか……照れくさいというのもあるが、例えばうちの妹や弟が急にそんなことを言い始めたら、ちょっと心配になるし、実践するハードルとしても、いささか高さを感じる。
では、これならどうだろう。母の日に感謝をこめてカーネーションを、バレンタインデーに愛の言葉を添えてチョコレートを贈るように、普段はあまり口にできない「あなたは大切な存在」という気持ちと、だから「絶対に自殺などしないでほしい」という、一歩踏み込んだ言葉を、この〝予防デー〟を機に伝えてみるのだ。「自殺」という響きは重い。こうしたイベントと並べると不謹慎なのではという気さえしてくる。口を閉ざしてしまいたくなる。しかしそれでは、いつまでも問題は水面下のまま、叫ばれる対策の数々も遠巻きに上滑りしてゆく。挙句、身近なところに表出する頃には危険な状態―最悪の場合、事後―になって相対することとなる。
〝予防デー〟に生まれる本書が「一言」のきっかけとなれるよう願っている。
同時に、いま苦しみのなかにあって、救いを求めることに躊躇いを感じている背中が、そっと押されるきっかけとなれることも願う。誰もみえない状態なら、少し力を抜いて、もう一度、見回してみてほしい。人に会うのが不安なら、電話相談でもいい。うまく話せなくても、通話しながら泣いてしまっても、相手はプロだから大丈夫。あなただけじゃない。恥ずかしいことでも、情けないことでもない。思い切ってはき出してしまうことを、経験者としておすすめする。
終わりに、たくさんの助言をいただいた佐相憲一様と鈴木比佐雄様、編集部
の千葉勇吾様、いつもお世話になっている友人、前・現職の同僚、家族の皆々様
(新しい命と、愛犬たちにも)、そして、本書を手にとってくださったあなたに、厚く感謝を申し上げたい。